ジャケット・デザインの世界 第1回:ヒプノシス

ジャケット・デザインの世界 第1回:ヒプノシス
永見浩之
永見浩之
ヒプノシス(Hipgnosis)は、ストーム・ソーガソン(Storm Thorgerson)とオーブリー・パウエル(Aubrey Powell)が1968年に結成したアート集団。ストーム・ソーガソンがピンク・フロイドのからの依頼で、2ndアルバムの『神秘』のジャケットを手がけたことをきっかけに、70年代を中心にプログレやハードロックのジャケットデザインを数多く制作した。60年代後半からロックの表現方法が多様化し、それまでのヒットチャート狙いのポップな曲作りからかけ離れた前衛的あるいは先進的(プログレッシブ)な姿勢のアーティストが大勢出現して、ヒプノシスはそんな彼らの新しい音楽を包むパッケージを、斬新なアイデアでアートにまで高め、ジャケットをコンセプトの一部にまで昇格させたのである。 彼らのデザインは、代表作といえる『原子心母』に象徴されるように「パッと見日常的な光景に思えるが、よくよく見るとシュールに感じる」ことが特徴的で、時に何か良からぬ事が起こっているのではないか、そんな不安な気持ちさえ掻き立てる。彼らのデザインしたジャケットを手に取った人は「この中にはきっと聴いたことがない新しい音楽が詰まっているんじゃないか」と勝手に妄想を膨らませ、そのレコードを買い求めていった。
Atom Heart Mother / Pink Floyd 1970
原っぱに牛がいるだけなのに、どこか不穏な空気が漂っている。バンド名もタイトルもなし、ただ牛だけ、という大胆なデザインにレコード会社はかなり難色を示したらしいが、このジャケットのおかげでか全英チャートNo.1を獲得。
Edgar Broughton Band / Edgar Broughton Band 1971
食肉処理場の牛の肉の中に女性が逆さ吊りにぶら下がっている。人の神経を逆撫でするグロいデザインとしてロックアルバム史上かなり上位に来るのではないだろうか。音はジャケットほど異端ではないが、ユニークな音像。
On The Shore / Trees 1971
少女が水を撒いているだけなのに、シンボリックで一度見たら忘れられない。肝心の音はトラッドフォーク・ミーツ・サイケデリックロックといった感じで、さすが名盤と言われるだけのことはある。
Elegy / The Nice 1971
故キース・エマーソンがEL&Pの前にいたバンドでクラシックとロックの融合がテーマであるが、EL&Pに比べるとそれがむき出しな感じ。砂漠に並ぶ赤い玉。『Venus And Mars』、『There's the The Rub』と並ぶ赤い玉三部作のひとつ。
Argus / Wishbone Ash 1972
Argusとは、ギリシャ神話に登場する百眼の巨人のこと。ツインギターを中心とした叙情的で神話的なイメージの音楽とジャケットの関係がピタリと合っていて見事な作品。
In Deep / Argent 1973
ゾンビーズのロッド・アージェントによって結成された、アージェントの4枚目。プールの中で人を撮っているだけだが、ありそうでなかったデザイン。この青とも緑ともつかない色が実にキレイなんです。
Houses of the Holy / Led Zeppelin 1973
たくさんの裸の子供たちが岩場を登ってゆくという神話的な世界観は、アーサー・C・クラークの名作『幼年期の終り』からヒントを得たという。結構明るい色合いが、高音部が強調されたキラキラした音色に合っている。
Wish You Were Here / Pink Floyd 1975
初版は黒のシュリンクラップに包まれていてデザインが見えない仕組みだった。この炎は合成と思いきや、実際に背広に火をつけている。この後、慌てて消火器で炎を消す写真が残っている。
Venus And Mars / Wings 1975
傑作『バンド・オン・ザ・ラン』に続く、ウイングスの名作。ビリヤードのような玉を金星と火星に見立てただけのシンプルなアイデアだが、不思議に印象に残るデザインである。
No Heavy Petting / UFO 1976
2本のチューブで繋がれた美女と一匹の猿。猿に栄養をあげているのか?2本あるから「行って来い」なのか?かなり悪趣味なデザインですが、マイケル・シェンカーのエキセントリックで攻撃的なプレイには合っている。 しかし、70年代後半には肝心の中身であるプログレやハードロック自体が次第に形骸化していき、もはやジャケットのイメージだけでは引っ張りきれなくなってきた。そして、そんな幻想を纏わらせない新しいリアルな音楽「パンク」が出現することによって、彼らのスタイルは一気に古びて見えてしまい、実際、1983年にチームは解散してしまう。しかし、CGや合成技術が全然発達していない時代に、一発写真で僕らの想像力を掻き立てる、その「アイデア」と入念な作り込みによる「完成度」は今の時代にも見るべきものがある。
Unorthodox Behaviour / Brand X 1976
ブラインドから男が覗いている。なんてことないのですが、『異常行為』というタイトルと相まってかなりイケナイことをしている感じが。ブランドXはイギリスのジャズロック〜フュージョン系のバンド。ドラムはあのフィル・コリンズである。
Kitsch / Heavy Metal Kids / 1977
スポーツカーから降り立つ男の視線の先には、車の事故でポップスターが死んだと報じる新聞が風に飛んでいる。男の近くない未来なのか…なんて想像させる意味深なデザイン。音自体は単純なロックンロールでここまでのストーリー性は感じないけど。
There's the The Rub / Wishbone Ash 1974
赤い玉三部作のひとつ。クリケット選手が変化球を投げるために、ボール側をズボンで擦っている瞬間というシブい設定。Rubには、擦るという意味があることからの連想であろうが、これもいいデザインだなぁ。
The Year Of The Cat / Al Stewart 1976
可愛いイラスト物なので、ヒプノシスと気づかない人も多いのでは。アル・スチュワートはそれまで知る人ぞ知るな感じですでしたが、このポップなアルバムで誰もが知る存在へ。鏡に映った猫男がキッスを意識したものなのかどうかずっと気になっています。
Going For The One / Yes 1977
70年代後半になると写真に幾何学的なデザインを合成してポップな仕上がりになってるものが多くなる。イエスでさえも大作主義から、短いポップな曲が増えてくる。その軽さを表現しているのかなと思いました。
永見浩之
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