東京事変のスゴい曲と新作「音楽」について

東京事変のスゴい曲と新作「音楽」について
森朋之
森朋之

東京事変が2021年6月9日“ロックの日”にニューアルバム「音楽」をリリースした。

2020年の元旦に突如として“再生”が発表され、新曲「選ばれざる国民」とともに約8年ぶりに活動を再開。その後も「赤の同盟」(ドラマ「私たちはどうかしている」主題歌)、「青のID」(映画「さくら」主題歌)などを発表し、大晦日には「NHK紅白歌合戦」への初出場を果たすなど、活動を繰り広げてきた。ここでは10年ぶり(!)のフルアルバム「音楽」のリリースに際し、代表曲や名曲を紹介しながら、東京事変の多面的な魅力を紹介したい。


デビュー時の衝撃/バンドの個性を決定づけたデビュー曲「群青日和」

出典元:YouTube(東京事変)

2004年に活動をスタートさせた東京事変の初期のメンバーは、椎名林檎(V)、刄田綴色(Dr)、亀田誠治(Ba)、H是都M(Key)、晝海幹音(G)。(H是都M、晝海幹音は2005年に脱退し、浮雲(G)、伊澤一葉(Key)が加入)。デビュー前にフジロックフェスティバルでヘッドライナーをつとめるなど、大きな注目を集めた。東京事変が世に放った最初の楽曲は、2004年9月にリリースされた1stシングル「群青日和」。東京の風景、演技と本心が混ざり合う女性心理を重ねた歌詞、凄腕ミュージシャンたちによる独創的にして奔放なアンサンブルを含め、東京事変の基本的な方向性を明確に示したアッパーチューンだ。その1か月後には2ndシングル「遭難」を発表。歌謡的な旋律、危うい恋愛に溺る寸前の感情が絡み合う状況を映し出す歌は、今聴いても驚くほどにスリリングだ。


東京事変が描く女性像

出典元:YouTube(東京事変)

椎名林檎が歌のなかで描き出す女性像も、東京事変の大きな魅力。危うさ、美しさ、繊細さ、軽やかさ、優しさ、怖さ、慈しみ、怒り、憤り、官能性――普段は包み隠されている女性の内面を多彩な筆致で映す歌詞は、読めば読むほど、聴けば聴くほど深みを増していく。たとえば「修羅場」。しなやかさと鋭さを併せ持ったグルーヴとともに綴られるのは、“貴方”への狂おしいほどの愛憎。愛情が殺意に変わりそうになる瞬間、決して結ばれないとはわかっていてもあきらめられない葛藤が渦巻く歌には、感情に飲み込まれそうになるほどの深さと凄みが備わっている。


出典元:YouTube(東京事変)

一方、女性のかわいらしさ、愛らしさをストレートに体現しているのは、「女の子は誰でも」。<女の子はお菓子と薬味(スパイス)>など、キュート&ポップなフレーズが印象に残るポップチューンだ。切ないミュージカル風のサウンドと心地よいポップネスをたたえたメロディも、歌詞の世界観をしっかりと際立たせている。


バンドのすごさ

出典元:YouTube(東京事変)

技術の高さと独創的なスタイルを併せ持ったミュージシャンが揃った東京事変。彼らが生み出す刺激的なアンサンブルは、音楽ファンはもちろん、多くのアーティストもリスペクトを寄せている。演奏の凄さを端的に味わえる楽曲の一つが、「キラーチューン」。シャッフルのリズムを軸に、ジャズ、ロック、ソウルなどが自然に絡み合うサウンドは、まさに名人芸。心地よく走るベース、速弾き、カッティングなどを駆使したギター、鮮烈なフレーズを奏でるピアノ、躍動感と繊細さを併せ持ったドラムなど、各プレイヤー演奏に耳を傾けてほしい。「能動的三分間」も、バンドの演奏センスが実感できる楽曲。研ぎ澄まされたサウンドと快楽的なグルーヴのバランスが見事だ。


隠れた名曲

シングルのカップリング曲、アルバムの収録曲にも名曲がたっぷり。まずは「落日」。繊細な響きをたたえた鍵盤からはじまり、痛々しいまでの叙情性を含んだ歌詞とともに<独りきり置いていかれたって/サヨナラを言うのは可笑しいさ>というフレーズに結びつけるミディアムバラードだ。



「電波通信」は、オルタナ系ギターポップ、ニューウェイブの雰囲気が色濃く反映されたロックチューン。鋭利に突き刺さるサウンド、どこか機械的な手触りのボーカル、そして、電脳世界と現実、バーチャルとリアルを行き来するようなサイバーパンク的な歌詞も魅力的だ。

出典元:YouTube(東京事変)


ニューアルバム「音楽」について

マイクチェックではじまり、お経を読み上げるオーガニックなヒップホップ「孔雀」から<わがままボディーの危険な合法MUSIC>という超キャッチーなフレーズで終わるネオソウル系ナンバー「一服」まで。じつに10年ぶりとなったフルアルバム「音楽」で東京事変は、音楽というアートフォームが持つ自由と可能性を思い切り表現してみせた。



「永遠の不在証明」は劇場版「名探偵コナン 緋色の弾丸」主題歌。ミステリアスなサスペンス性をたっぷりと含ませながら、サビに入った瞬間に一気に解放されるメロディライン、そして、ストイックな抑制とダイナミックな爆発力を兼ね備えたサウンドメイクは、“名探偵コナン”の世界観を強くリンクしつつ、東京事変の新たな表現スタイルへと繋がっている。生命の謎をモチーフにした、美しくも妖しい歌の世界もきわめて魅力的だ。

出典元:YouTube(東京事変)


そして「縁酒」は、和の情緒をたたえた歌、鋭利な手触りの演奏が一つになったナンバー。“自由”“尊厳”についてのシリアスなメッセージが込められた歌詞を含め、聴き返すたびに深みを増す大人のポップチューンだ。伝統的な日本家屋を舞台にしたMVでは、メンバー全員が麗しい和服姿を披露。後半のオペラ調のコーラスでは、QUEENを想起させるカットが挿入されるなど、遊び心もたっぷり。日本生まれのロックバンドとしての矜持がたっぷり詰まった作品と言えるだろう。

出典元:YouTube(東京事変)


その他の楽曲も、独創的な美意識と極めて高度な音楽性が見事に同居している。独自のギターロック、ジャズ、ソウルなどを自由に吸収し、独創的なアイデアをたっぷりと落とし込みながら、無駄を削ぎ落した音像に結びつける演奏。そして、どこまでも混迷を極める社会の現状を映し出し、人々の感情に寄り添い、鼓舞し、ときに笑い飛ばす歌詞。“復活”からの2年間を凝縮するともに、バンドの新たなフェーズを切り開いた名作だ。



森朋之
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