ビュンビュンのアッコちゃん

ビュンビュンのアッコちゃん
内田正樹
内田正樹

近頃、矢野顕子が飛ばしている。 彼女はこの新作を何と発売日の一ヶ月も前に全曲ライブで、しかも笑顔で披露していた。こんなことは強靭な演奏力と自信が無ければ実現しない。こんなことが出来るのは彼女ぐらいだろう。 この「飛ばしていくよ」は、矢野にとって5年振りの新作である。トラックメーカーに砂原良徳、BOOM BOOM SATELLITESといったベテランやAZUMA HITOMI、sasakure.UKといった若手も迎え、前衛的なエレクトロニックポップスが展開されている。そもそも彼女は1980年に行われたYMO国内/世界ツアーの参加メンバーで、彼女の80年代までの作品もYMOがバックアップをしていたのだが、このアルバムは長いインターバルを経た、現代的解釈による“あの頃の続き”のようでもある。 ファーストアルバムに収録されていた「電話線」やYMOの「在広東少年」はフレッシュな装いとなり、オフコースのカバー曲「YES-YES-YES」はもはや完全に矢野のレパートリーにしか聴こえない痛快な仕上がりに。「リラックマのわたし」や「ごはんとおかず」は聴いていて思わず目を細めてしまう優しさとあたたかさがある。伊勢丹の公式テーマ「ISETAN-TAN-TAN」では彼女一流の良質なセンスの遊び心が光る。「愛の耐久テスト」や「Captured Moment」では厳しくもたおやかな視線から愛が歌われている。 EDMや“初音ミク”に代表されるボーカロイドによって、昨今電子音楽は新たな浸透を見せているが、矢野が本作でエレクトロというアプローチを選択している理由は、決して時流云々ではなく、心身共に軽快で創作意欲溢れる現在の自分が、その音楽性と速度感を表現するのに最も適し、かつ“面白い”と感じたからだと思う。 ひたすら痛快にカッコよく、様々な愛の形が奏でられた大人のテクノアルバムである。

内田正樹
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