この歌のこの歌詞がすごい

この歌のこの歌詞がすごい
山本雅美
山本雅美

季節は春、新生活をスタートする人もたくさんいることでしょう。胸踊る気持ちと不安な気持ちの両方があるはずです。今年はそういった季節に、新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大の影響で生活環境が大きく変わり、そして世界中で多くの人が亡くなっています。そんな重苦しい空気が漂う中、気持ちがへこたれてしまう時もあるかもしれません。今回はそんな時に、本当に胸に刺さる歌詞の力を持つ楽曲を紹介します。今回紹介する曲はいわゆる「応援」ソングではありません。歌詞に秘めた、強い生命力を感じてみてください。


命に嫌われている / カンザキイオリ

出典元:YouTube(kobasoro)

2014年1月「反抗期」を投稿しボカロPデビューしたカンザキイオリ。 2017年7月に公開された「命に嫌われている」は1,200万回再生を記録(2020年3月現在)するほか、majikoやまふまふなど著名無名に関わらず数多くのアーティストやクリエイターによって公開された「歌ってみた動画」や「MADムービー」の再生総数が1億回以上を超えるなど、インターネットでロングラン人気になっています。若いネットユーザーにこれほどまでに支持されている要因は何なのでしょうか。

「命に嫌われている」には「頑張れ」とか「大丈夫」というような背中を押すような言葉は一切なく、むしろ、そういった綺麗な言葉を否定することから始まります。誰かを傷つけても気にとめることもないのに、自分は楽しく毎日を過ごしていくという矛盾する生き方を提示される歌詞は、聴く人をドキリとさせます。それは、いまの社会を覆う虐待問題やいじめ問題の深淵を見せつけられているように感じるかもしれません。そして「命」を軽視することは、「命」そのものに嫌われてしまうということなのだと、問いかけてきます。主人公である「僕ら」も「命」というものが何なのか、もがき続けます。それでも「僕ら」は最後に目を見開き叫びます。


命を必死に抱えて生きて

殺してあがいて笑って抱えて

生きて、生きて、生きて、生きて、生きろ


この歌の凄さは、閉塞感のある社会や学校で過ごす若者たちそれぞれが抱く、言葉にできない声に同調し、微かな光を与えていることにあるのだと思います。それは一番必要なメッセージであるのかもしれません。だからこそ多くのアーティストやリスナーに「命に嫌われている」が歌われ、聴かれ続けるのではないでしょうか。


深夜高速 / フラワーカンパニーズ

出典元:YouTube(flowercompanyzSMEJ)

すでに青春という時代は過ぎているものの、自分の夢を目指し走り続ける男の描写で始まる「深夜高速」。しかしその道は真っ暗で、自分の夢が何だったのかも薄れてしまっています。そして、いままで生きてきた時間も、たくさんのひどい事やひどい言葉を振り返り後悔の念に襲われています。自分がもう若くないと感じるその時、自分のいま居る場所を客観視し、未来にも過去にも不安を感じる本音の言葉が噴き出します。その中で繰り返される言葉が、この歌の中心になっています。


生きていてよかった 生きていてよかった

生きていてよかった そんな夜を探している


全力で叫ぶ「生きていてよかった」というフレーズは、一番胸に強く響き、聴く者を惹きつけます。自信なんてないし、間違っているかもしれない。こうやって「生きていてよかった」と叫べば、まだ前に歩いていけるんじゃないかという勇気を与えてくれます。自分が弱っている時に、この歌を繰り返し聴いてみてください。何かを感じるはずです。


生きていたんだよな / あいみょん

出典元:YouTube(あいみょん)

「生きて欲しいということが大前提の曲なんですけど、自ら命を絶つことを否定もしてないし、肯定もしていないんです」と、あいみょんは過去のKKBOXのインタビューで答えてくれています。そして「いまある命を精一杯生きなさい」って良く言われるけれど、その言葉ってどこか綺麗ごとだ考えていたあいみょんが、自分の純粋な気持から作った曲だといいます。


今ある命を精一杯生きなさいなんて綺麗事だな

精一杯勇気を振り絞って彼女は空を飛んだ


「生きていたんだよな」は、自ら命を絶ってしまった少女への客観的な視点と死者に対するリアルな言葉が溢れています。そしてテレビ番組で報道されるニュースに、傍観者になっていないのかという投げかけをしてくれる楽曲のように思います。その一方で重いテーマにもかかわらず、不思議と生命力に満ちています。


生きてることが辛いなら / 森山直太朗

出典元:YouTube(森山直太朗)

生きることが辛く感じている人はどうしたらいいのでしょうか。「生きてることが辛いなら」の中で、森山直太朗はこう語りかけます。


生きてることが辛いなら いっそ小さく死ねばいい

恋人と親は悲しむが 3日と経てば元通り


楽曲が発表された当時、冒頭の歌詞で歌われる「小さく死ねばいい」というフレーズが、自殺を助長するのでは?と物議を醸しました。毒のある表現ですが決して人を突き放しているわけではなく、死ねばどうなるか考えることによって、命の大切さ、尊さを感じ取って欲しいという意図がそこにはあったようです。そして楽曲を通して伝わってくるのは、 悩む人たちに寄り添い、無理に頑張らなくていいよという言葉です。


生きてることが辛いなら わめき散らして泣けばいい

生きていることが辛いなら 悲しみをとくと見るがいい

生きているのが辛いなら 嫌になるまで生きるがいい


冒頭の「小さく死ねばいい」という言葉も、死にたいと思っている人の思いを頭ごなしに否定しないところから生まれたメッセージなのだと思います。悩んでいることに共感を示すことでその気持ちに寄り添うような優しい視点を感じます。


そのいのち / 中村佳穂

出典元:YouTube(中村佳穂)
※「そのいのち」は4分50秒ぐらいから視聴できます

中村佳穂の「そのいのち」を最初に聴いた時に胸を鷲掴みされました。楽曲の大部分を占める言葉は、どこかの地方の方言のようであり、異国の言葉のようであり、古から伝わる儀式の掛け声のようにも聞こえます。この普遍的なプリミティブ性のような歌詞がメロディ&リズムと一緒になり不思議な高揚感を与えてくれます。


そのいのちちりじりぬ かぜすさぶりかえぬす


中村佳穂自身、「そのいのち」は歌詞にあまり具体性や意味を持たせ過ぎないように意識し、意味がわからない部分はピアノを弾きながら音の感覚だけで歌い「言葉のように」整えただけと言います。また同時にいま目の前にある大切なものに対する気付きを与えてくれる言葉も歌われます。


生きているだけで 君が好きさどこに行っても君が好きさ


抽象的なフレーズを口にすることによって「生きていこう」という気持ちを鼓舞され、具体的なフレーズを共有することで「生きる」ことを見つめ直すことができる楽曲、それが「そのいのち」です。




山本雅美
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