庵野秀明とエヴァンゲリオンの音楽

庵野秀明とエヴァンゲリオンの音楽
森朋之
森朋之

出典元:YouTube(株式会社カラー khara inc.official)

興行収入100憶円を超える大ヒットとなった映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』によって、ついに“終劇”を迎えたエヴァンゲリオン・シリーズ。10月1日からは国立新美術館(東京)で庵野秀明展が開催されるなど、エヴァンゲリオンのムーブメントはまだまだ続きそうだ。このコラムでは“エヴァンゲリオンと音楽”に焦点を当て、その魅力を改めて紐解いてみたい。

エヴァンゲリオンと宇多田ヒカル

出典元:YouTube(Hikaru Utada)

宇多田ヒカルはエヴァンゲリオン“新劇場版”の3作、そして、最後の作品『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の主題歌をすべて手がけている。宇多田は以前からエヴァンゲリオンのファンであることを公言。さらに庵野監督の強いオファーにより、両者の14年にも及ぶコラボレーションは始まった。

  • 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007年)テーマソング「Beautiful World」
  • 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009年)テーマソング「Beautiful World -PLANiTb Acoustica Mix-」
  • 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012年)テーマソング「桜流し」
  • 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021年)テーマソング「One Last Kiss」「Beautiful World (Da Capo Version)」

個人的にもっとも印象的なのは、「桜流し」。2010年からアーティスト活動を停止し、“人間活動”に入った彼女。2016年の活動再開までの時期に、唯一発表されたのが「桜流し」だったのだ。

出典元:YouTube(UNIVERSAL MUSIC JAPAN)

“葛城ミサトの目線で書かれたのでは?”と解釈されることが多い楽曲は、彼女自身の人生とも強く重なっているはず。また、日本語の豊かな響きを活かしたフロウは、その後の宇多田の作風につながっている。「One Last Kiss」も素晴らしい。共同プロデューサーにチャーリー・XCXとの仕事で知られるA.G.COOKを迎え、生音の響きを活かしたエレクトロ・トラックを実現。神聖な危うさと称したくなるメロディと多重録音によるコーラス、そして、〈誰かを求めることは/即ち傷つくことだった〉というラインは、エヴァンゲリオンの本質と強く結びついていると思う。

エヴァンゲリオンと昭和ポップス

エヴァンゲリオンの劇場版シリーズには、昭和歌謡やフォークソング、ニューミュージック系の楽曲が数多く使用(歌唱)されている。その傾向がもっとも強く現れているのは、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』。挿入歌として、林原めぐみが歌う「今日の日はさようなら」(森山良子/1967年)、「翼をください」(1971年/赤い鳥)、「ふりむかないで」(ザ・ピーナッツ/1962年)、「恋の季節」(ピンキーとキラーズ/1968年)を使用。さらにマリ(坂本真綾)がエヴァ仮設5号機の操縦中に「三百六十五歩のマーチ」(水前寺清子/1968年)を口ずさむシーンもある。まさに「昭和歌謡大全集」(村上龍の小説)状態だが、この選曲がストーリーや演出に大きな効果を与えているのだ。特に大きなインパクトを感じるのが、「今日の日はさようなら」。3号機の起動実験にアスカが搭乗するも、使徒により浸食される。初号機で迎撃に向かったシンジは戦闘を拒否し、ダミープラグに切り替えられ、初号機は3号機を破壊し尽くしてしまうという衝撃的なシーンで流れる「今日の日はさようなら」は、エヴァ・シリーズを象徴する楽曲の一つとなった。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では、映画の冒頭でマリが歌う「真実一路のマーチ」(水前寺清子/1969年)、「世界は二人のために」(佐良直美/1967年)が心に残った。特に「世界は二人のために」の“二人のため 世界はあるの”という歌詞はきわめて意味深。二人とは誰のことか? マリにとって世界とは? 音楽を通していくつもの謎を残す演出も、エヴァンゲリオンの特徴だろう。

エヴァンゲリオンの戦闘シーンを彩る鷺巣詩郎の音楽

1995年にはじまったテレビシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』から『シン・エヴァンゲリオン劇場版』まで、すべての劇伴を手がけている鷺巣詩郎は、エヴァンゲリオンにとって、もっとも重要なクリエイターの一人。数多い名曲・神曲のなかから、特に印象的な楽曲を紹介したい。

「Sin From Genesis」(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』)

第10の使徒に取り込まれた綾波レイを救うために奮起した碇シンジの意識に同調し、初号機が覚醒する場面で使用された楽曲。神聖にして鋭利な旋律、緊張感とカタルシスを同時に感じさせるアンサンブル、荘厳な響きをたたえた演奏が一つになったクラシカルなナンバーだ。

「DECISIVE BATTLE」(『新世紀エヴァンゲリオン』)

テレビシリーズでは、使徒を迎え撃つ攻撃準備のシーンなどで使用。ヤシマ作戦(高エネルギーを要する武器を使用するため、日本中を停電させる作戦)のBGMとしても知られている。勇壮なティンパニィを軸に、壮大なストリングス、強靭な響きを放つ管楽器が共鳴する、攻撃的な楽曲だ。

「Both of You,Dance Like You Want to Win!」(『新世紀エヴァンゲリオン』)

テレビシリーズ第9話「瞬間、心、重ねて / Both of You, Dance Like You Want to Win!」のクライマックス。初号機(碇シンジ)と2号機(惣流・アスカ・ラングレ―)が完璧にシンクロし、第7使徒・イスラフェルを殲滅するシーンで使用される楽曲。軽快さ、切なさ、力強さを兼ね備えた、エヴァンゲリオンを代表する名曲の一つだ。

エヴァンゲリオンとクラシック

出典元:YouTube(株式会社カラー khara inc.official)

そのほか、パッヘルベル「カノン」(『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』)、バッハ「G線上のアリア」「主よ、人の望みの喜びよ」(劇場版『Air/まごころを、君に THE END OF EVANGELION』)などのクラシック曲の使い方も特徴的。また、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では、「yearing for your love」をはじめ、心地よい日常を彩るような楽曲も印象に残った。

この機会にぜひ、エヴァンゲリオンの音楽の世界をじっくりと堪能してみてはいかがだろうか。



森朋之
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