アーティストたちがカバーするユーミンの名曲たち

アーティストたちがカバーするユーミンの名曲たち
山本雅美
山本雅美

2022年にユーミンこと松任谷由実(以下 ユーミン)がデビュー50周年を迎えました。1972年に荒井由実としてデビュー、これまでに残した名曲たちは時代を超えて多くの世代の胸に刻まれています。欧米のサウンドデザインを取り入れたメロディにいつもドキドキさせられ、「昨晩お会いしましょう」「14番目の月」「悲しいほどお天気」など巧みな言葉に、誰もが胸をときめかせました。そして間違いなく、現在に繋がるシティ・ポップの種を蒔いたアーティストがユーミンなのです。そんなユーミンをリスペクトするアーティストも多く、数えきれぬほどのアーティストがカバーしています。10月4日に発売された『ユーミン万歳!〜松任谷由実50周年記念ベストアルバム〜』とともに、今回はユーミンの名曲をカバーしたあのアーティストを特集します。

リフレインが叫んでる(1988)

出典元:YouTube(松任谷由実)
当時の恋人たちの様子も確認できうる文化遺産的価値のあるミュージックビデオ。

ユーミンと言えばこの曲!という人も多いかもしれない「リフレインが叫んでる」。実はシングルリリースはされておらず、1988年11月にリリースされた20thアルバム『Delight Slight Light KISS』の1曲目を飾っている曲です。リードシングル曲がなかったにも関わらず『Delight Slight Light KISS』はミリオンセールスを達成、日本のポップスシーンでユーミンのポジションを確固たるものにしたのが、間違いなく「リフレインが叫んでる」です。一度聴いたら忘れられない印象的な歌詞を真似て「どうして、僕たちは出会ってしまったんだろうね。」なんて、デートの時に言葉にした人もいるのではないでしょうか。西城秀樹、河村隆一、Aimer、川畑要(CHEMISTRY)などのアーティストにカバーされていますが、井上陽水のカバーは圧巻です。

出典元:YouTube(UNIVERSAL MUSIC JAPAN)

盟友と公言しているほど厚い親交を持っている井上陽水。ユーミンのことを次のように語っています。

ユーミンはね、

僕の周りに音楽関係者、アーティストいますけど

まあ数少ないリスペクトできる人ですね。


歌詞にしろメロディにしろサウンドにしろね。

ファッショナブルな感じとかスケールとか。

井上陽水がリスペクトし、大ヒットカバーアルバム『UNITED COVER 2』(2015)で歌ったのが「リフレインが叫んでる」。オリジナルリリースから四半世紀を経て、まったく違う圧巻の陽水ワールドに染め上げてしまっています。井上陽水自身、“誰もが知っている曲が「こんなアレンジになるんだ、いいね」と言ってもらえるのが嬉しい、 自尊心をくすぐられる。”と語っています。

守ってあげたい(1981)

出典元:YouTube(松任谷由実)
1990年12月4日から1991年4月28日にかけ、14会場で全34公演を開催した「WINGS OF LIGHT "THE GATES OF HEAVEN" TOUR」 。

薬師丸ひろ子主演の映画『ねらわれた学園』の主題歌となり、大ヒットした「守ってあげたい」。ユーミンにとっても、日本のポップスシーンを振り返っても非常に重要な役割を果たしました。それ以前の荒井由実の流れを汲むニューミュージック的なアプローチから、「守ってあげたい」でユーミンは、ポップス志向を明確にします。そして、これ以降ユーミンがリリースするシングルはヒットチャートの常連となり、同年にリリースしたアルバム『昨晩お会いしましょう』から17作連続でオリコン・アルバムチャート1位を獲得します。「守ってあげたい」は“ユーミンブーム”を作り出した、非常に重要な楽曲だったと言えます。

出典元:YouTube(JUJU Official YouTube Channel)

多くの人たちに愛された「守ってあげたい」ですが、JUJUもカバーしています。JUJU自身が「ユーミンは私の“人生の教科書”」と話し、10代の頃には大人の恋愛模様をユーミンに学び、ジャズ・シンガーを目指してニューヨークで過ごした日々のなかでも、JUJUを支えた曲はユーミンでした。そんな彼女の感謝の気持ちも感じる「守ってあげたい」は琴線に触れる1曲となっています。このカバーは2022年3月にリリースされたユーミンのカバーアルバム『ユーミンをめぐる物語』に収録、松任谷正隆&松任谷由実の全面プロデュースによって制作されています。

あの日にかえりたい(1975)

出典元:YouTube(松任谷由実)
1996年に開催された『Yumi Arai The Concert with old Friends』から。このコンサートでは荒井由実時代の曲だけでおこなわれた。

1975年10月にリリースされた「あの日にかえりたい」は、ユーミンのシングルとしては初のチャート1位に輝いた、荒井由実時代の金字塔となっている曲です。若者たちがフォークソングに熱中していた時代、イントロやアウトロの情緒的なコーラスや、ボサノバ調のアコースティックギターなど、どこを聴いても斬新で新しい音楽の誕生を予感させたのが「あの日にかえりたい」でした。同時に、大人にしかわからない世界感が、ユーミンならではの言葉で濃厚に表現されています。と言っても、この時のユーミンは21歳。いまの時代に比べるととても大人びた歌に感じます。ちなみに「あの日にかえりたい」のコーラスは山本潤子、吉田美奈子、シュガー・ベイブで、ギターは細野晴臣という当時の先端を走るミュージシャンが集結してレコーディングされています。

そんな「あの日にかえりたい」は、桑田佳祐、稲垣潤一、大橋純子、小野リサ、當山みれいなど幅広い世代のアーティストたちにカバーされています。意外なカバーアーティストが THE YELLOW MONKEYの吉井和哉。男歌として、吉井和哉の声の表現力が素晴らしいのと同時に、オリジナルで印象的なクラリネットの旋律を活かしたアレンジがされているなど、原曲の良さを、きっちりと残しています。吉井和哉も幼い頃に、この曲に大いなる刺激を受けたのでしょう。

中央フリーウェイ(1976)

出典元:YouTube(松任谷由実)
『Yumi Arai The Concert with old Friends』から。

荒井由実名義での最後の作品となった4thアルバム『14番目の月』に収録された「中央フリーウェイ」。間違いなくシティ・ポップという音楽テイストを明示した曲です。地方で暮らす若者たちは、この曲を聴いて、東京の煌めく空気を想像したことでしょう。そして車の運転免許をとったら中央高速を走り、調布基地を追い越し、ビール工場や競馬場を見ながらドライブをした人もたくさんいたと思います。2019年に某損害保険会社が行った「初めてのドライブデートでかけたい曲」の調査結果では、「中央フリーウェイ」が1位になるなど、時代を超えて圧倒的な人気を誇っています。リリースから半世紀近く経ち、ライフスタイルが大きく変わった現在でも「中央フリーウェイ」は輝き続けているのです。

出典元:YouTube(UNIVERSAL MUSIC JAPAN)

そんな「中央フリーウェイ」をカバーするのは今井美樹。JUJU同様に、ユーミンを敬愛する今井美樹は、2013年にユーミン作品を全編カバーしたアルバム『Dialogue -Miki Imai Sings Yuming Classics-』をリリース。当時のライナーノーツを読むと、今井美樹のユーミンへの限りない愛を感じます。初めてピアノ譜を買って弾いたのが「卒業写真」、東京に上京してから毎日のように聴いていた曲が「中央フリーウェイ」、そしてユーミンを知るきっかけとなった「あの日にかえりたい」。この3曲は、軽々しく触ってはいけないと自覚しながら、自分の原点を見つめる上でどうしても選曲から外せなかったと記されています。またユーミンは今井美樹に対して、こんなメッセージを贈っています。

かつて私が様々な月日の中で創った歌が美樹さんの歌声を、

心をとおして新しい歌としてみんなの心に届いてゆくことを祈っています。

感謝とともに。

春よ、来い(1993)

出典元:YouTube(松任谷由実)

春を待ち侘びる心情をここまで情緒的に歌い上げた曲があったでしょうか。「春よ、来い」こんな感覚を多くの人たちが感じ、胸を揺さぶられたはずです。この頃、「真夏の夜の夢」「Hello, my friend」など様々な曲調でミリオンセールスを連発していたユーミンですが、それまでの作風とは異なり、和を感じさせるピアノフレーズが美しい新機軸の歌となっているのが「春よ、来い」の特筆すべき点です。そして、なんと言っても圧巻の歌詞。「淡き光立つ 俄雨 いとし面影の沈丁花」という冒頭の歌詞から、ラストにリフレインされる「春よ 遠き春よ 春よ まだ見ぬ春」まで、美しく表現力豊かな言葉に飽きることがありません。ユーミン史上、いや日本のポップス史上に残る「春よ、来い」。これから50年先も、100年先も聴き継がれていくはずです。

出典元:YouTube(ayu)

そんな「春よ、来い」は実に多くのアーティストたちの心も掴みました。浜崎あゆみもその一人で、2021年にリリースしたバラード・ベストアルバム『A BALLADS』の中で、「春よ、来い」をカバーしています。浜崎あゆみは以前にも「卒業写真」をカバーするなど、実はユーミン愛がたっぷりなのです。ミュージックビデオではオリジナルのテイストを踏襲し、桜舞う枯山水や金色の屏風を背景に歌い上げる浜崎あゆみは必見です。

またTHE BACK HORNの山田将司がハスキーな声で歌う「春よ、来い」も味わい深いものがあります。ぜひ聴き比べなども楽しんでください。

いかがでしたか。今回紹介したユーミンのカバーソングはまだまだほんの一部です。KKBOXのプレイリスト「ユーミンをめぐるカバーソングの物語」でも、是非いろんなアーティストのユーミン・カバーソングを楽しんでください。

〈インフォメーション〉

松任谷由実 アリーナツアー2023 第1期公演日程

ぴあアリーナMM:5月13日&14日

さいたまスーパーアリーナ:5月20日&21日

大阪城ホール:5月27日&28日

北海道立総合体育センター 北海きたえーる:6月3日&4日

長野ビッグハット:6月11日&11日

東京有明アリーナ:6月17日&18日

静岡エコパアリーナ:6月24日&25日

大阪城ホール:7月1日&2日

朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター:7月8日&9日

神戸ワールド記念ホール:7月15日&16日

盛岡タカヤアリーナ:7月22日&23日

SAGAアリーナ(佐賀):7月29日&30日

日本ガイシホール:8月19日&20日


山本雅美
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