【話題】あたらよ「季億の箱」発売記念取材|人の数だけ季節の記憶がある

【話題】あたらよ「季億の箱」発売記念取材|人の数だけ季節の記憶がある
KKBOX編集室
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皆さんは “あたらよ” というバンドをご存じでしょうか。「悲しみをたべて育つバンド。」をコンセプトに、共感性の高い楽曲で若い世代を中心に広く人気を博す3人組です。2020年にYouTubeに投稿した初のオリジナル楽曲「10月無口な君を忘れる」を発表するとその情景が浮かぶ切ない歌詞の世界観が話題となり、再生回数は翌年末までに4,500万回を突破。たちまちTikTokやSpotifyなどさまざまなサービスのランキングで首位を獲得し、2022年には日本テレビ系「バズリズム02」の「これがバズるぞ!2022」や日経エンタテインメント「2022年の新主役100人」に選出された彼ら。今最も注目されているアーティストのひとつといえるでしょう。

左から、まーしー(ギター)・ひとみ(ボーカル&ギター)・たけお(ベース)

そんなあたらよが、2023年8月23日(水)にコンセプトアルバム『季億の箱』をリリース!「僕らはそれを愛と呼んだ」(映画「スパイスより愛を込めて」主題歌)や「届く、未来へ」(テレビ朝⽇系⽊曜ドラマ「ケイジとケンジ、時々ハンジ。」オープニング)など計14曲が収録されており、季節の美しさをあたらよならではの視点で描いたコンセプトアルバムとなっています。

そこで今回は、アルバムリリースを目前に控えたあたらよにインタビューを実施。今作のアルバムに込めた想いはもちろんのこと、バンド結成時のエピソードから作詞・作曲におけるポイントまでさまざまなお話を伺いました。「たべて育つ」の真意も明らかになりますよ。

「あたらよ」個性も音楽的趣向も異なる3人が奏でる極上のバラードに話題沸騰


──まずはお一人ずつ自己紹介をお願いします。最近どんなアーティストの楽曲を聴いているのか、日常生活でハマっていること・ものも添えていただけると嬉しいです。
まーしー:ギターのまーしーです。僕はELLEGARDENが大好きで聴いてるのと、あとNeck Deepっていう…。

──おお、ポップパンクバンドですね?
まーしー:あ、そうですそうです。最近よく聴いてます!
ひとみ:あと最近ハマっていることは?
──はい、何かあれば笑…!
まーしー:ハマってること…。あー、十割そばにハマってて笑
(一同爆笑)
まーしー:夏なんで、結構さっぱりいけるし。小麦のつなぎがないやつなんで。なんかすごい穀物みたいな匂いがするというか、“穀物臭め”みたいなやつが好きで。
──風味を感じたいんですね。
まーしー:はい。で、ハマってよく食べてます。
──それは、コンビニのとかではなくてなにかこだわりのものがあるんですか?
まーしー:いや、普通にスーパーに売ってる乾麺タイプのやつですね。
──なるほど、生麺じゃないやつですね。
まーしー:わりと手軽で結構うまいなぁって感じで。
──さっきの好きなアーティストの話をもう少しお聞きしたいんですが、Neck Deepはどういう流れで辿り着いたんでしょうか?ELLEGARDENはきっと青春ってところだと思うんですけど。
まーしー:そうですね。結構西海岸系の音楽っていうか、ああいう速くて爽快みたいなのとか…。
──ピザとコーラが合う!みたいな笑
まーしー:そうです笑、そういうのが大好きで昔から。で、そういう音楽をよく聴いて、たまたまそういう曲を垂れ流しにしている時に「なんか格好いいアーティストだなあ」って思って見たらNeck Deepだったっていう。
──で、ハマっていったということなんですね。
まーしー:はい。

──ありがとうございます。それでは続いてひとみさんお願いします。
ひとみ:あたらよのボーカル&ギターのひとみです。最近聴いてる曲はキタニタツヤさんの「青のすみか」っていう「呪術廻戦」の曲なんですけど、それにハマってとりあえずもう本当それだけループして聴いてます笑。

最近ハマってるものとしては、手先を使うことが好きで、ペーパークラフトとかこうウッドパズルっていうんですかね、1枚の木にプラモデルみたいにいろんな部品がくっついてるものをちょっとずつこうパキパキって外していって、それを専用のボンドみたいなので繋げて作品を作るみたいなのにハマっています。
──そういう細かい作業がお好きだったりするんですか?
ひとみ:はい。大好きです笑!
──ちなみに曲はもうハマったらずっと飽きるまで聴き続けるタイプですか?
ひとみ:そういうタイプです。もうひたすらそれだけ聴いてますね。
──ありがとうございます。では続いて、たけおさんいかがでしょうか。
たけお:ベースのたけおです。えっと…なんでしたっけ?
──笑。最近お聴きになってるアーティストと、あとハマってることみたいなのがあれば教えていただけますでしょうか。
たけお:あ、ええと好きなバンドはUNISON SQUARE GARDENで、最近聴いてるのはなんでしょう、月詠みというバンドとかをよく聴いてます。

──割と新人の方なんでしょうか?
たけお:新人なんですかね?その…なんでしょう、もとが作曲者さんで、ボカロPの方なんですけど、それで最近バンドとして出てきて、バンドもやってるみたいな感じです。

──ああ、なるほどですね!ありがとうございます。それでは続いて、あたらよさんのことをまだ知らないという人もいるかと思うので、あたらよの自己紹介をお願いできますでしょうか。
ひとみ:バンドの自己紹介?笑 なんだろう?笑 まあでも、よく言っていただくこととして「悲しみをたべて育つバンド。」っていうフレーズがあって、バラードの曲調が得意な悲しみを題材に歌った楽曲とか、季節を題材にした曲が多いバンドですね。

「私たちが描く世界観にハマってもらえるように、必ず情景が浮かぶ歌詞を」

──あたらよさんの音楽は聴いていて情景が浮かぶような楽曲が多い印象があって、作曲において軸にしているところというかテーマみたいなものはおありだったりするのでしょうか?また、そのテーマに特定のアーティストの影響が背景にあれば、その辺りもお伺いできればと思います。
ひとみ:そうですね。作詞は基本自分が担当してるんですけど、ルールとして決めてるのが「Aメロには必ず聴いた時に情景が浮かぶフレーズを入れる」というところで。曲の聴き方って人によって自由なんですけど、最初にこういう場所のこういう季節感で、雨が降ってるとか風が吹いてるとか、そういう情景をリアルに描いてあげることによって、聴き手としてもある程度みんなが景色を想像したうえで曲を聴けるので。世界観にどっぷりハマっていただけるようにっていうことで、Aメロには必ずその情景が浮かぶ歌詞を入れるようにしています。

──それは曲作りの過程で模索した末に辿り着いた形なのでしょうか。
ひとみ:自分らは全員東京の専門学校出身なんですけど、そこで作詞の授業があったんですよ。作詞の先生に「Aメロには情景を入れなさい」って言われて。
──そうなんですね。
ひとみ:で、(その通り)真面目にやってたら意外とそれって本当に(先生が)言ってたことが正しかったんだなって思ったっていうか。自分でもしっくりきたので、それを引き続き採用させてもらってるっていう感じです。
──曲調だったり世界観だったりで、特定のアーティストに影響を受けたという点ではいかがでしょうか。
ひとみ:あー、でもアーティストで影響を受けてるのは間違いなくヨルシカだと思います。

──ありがとうございます。すごく腑に落ちます。ちなみに「悲しみをたべて育つバンド。」というコンセプトには、どういう流れで行き着いたのでしょうか。今の音楽性に行き着くまでにどんな葛藤があったのかもあわせてお伺いできればと思います。
ひとみ:そうですね、「悲しみをたべて育つバンド。」っていうのは、あたらよっていうバンドを結成してTwitterを開設して、その後ぐらいだよね?
まーしー:うん。
ひとみ:誰が言い出したのかも覚えてないよね笑?
まーしー:まったく覚えてない。
ひとみ:なんかそれぐらい自然に出てきたというか、こう結構熟考して何かひねり出したってよりかはポン!って出てきた言葉だった気がしますね。
──そうなんですね。「たべて育つ」ってなんか独特じゃないですか。
まーしー:うん。
ひとみ:そうですね。
──でもふっと落ちてきたというか、流れて出てきたコンセプトなんですね。
ひとみ:そうですね。それこそその後の話に繋がるんですけど、自分自身、作曲・作詞をするうえでやっぱ “楽しい” “ハッピー” みたいな歌詞が書けないんですよね。どっちかっていうと悲しみだったり怒りだったりっていうものを題材に、気持ちを自分の中で咀嚼して歌詞にして書き出すっていう作業をしてるので。そういう意味で、こう食べてバンドとして吐き出した曲が伸びていって大きくなって育つっていうニュアンスですね。
──なるほどですね。先程Twitter開設のお話がありましたけど、それってバンドができた頃の駆け出しのお話じゃないですか。その頃から割とそういう価値観で作詞・作曲をしていく流れがあったんですか?
ひとみ:そうですね。専門学校の卒業間際にこのバンド組んだんですが、在学中もずっと曲はいろいろ書いていて。けど、やっぱりどうしても楽しいハッピーな曲が書けなくて。で、自分の心が動く曲や歌詞とか、こう納得のいくものが書けたなって思う時っていつもやっぱ悲しみとか怒りを題材にした楽曲の時が多かったので。じゃあもうそこにフォーカスしてやっていこうって感じでしたね。
──普段聴く音楽も、自然とそういう方向性が多かったりするんですか?明るい曲調のものよりは、どっちかっていうと等身大に辛さだったり苦しみだったりっていうのを歌いながら、それを前向きにとらえるというか、そういう着地にいくような世界観のバンドが多かったりするんでしょうか?
ひとみ:そうですね。楽しい系の曲を聴く時はもう洋楽とかになってきますね。日本語の曲でそういう曲はあんま聴かないです。

「ギターを持ったら歌詞が降りてくる。詩もメロディも弾いて歌ってみると自然と出てくる感覚。」

──共感性の高い歌詞であったりドラマ性の強いミュージックビデオの世界観であったりと、戦略的にバンドをマーケティングされている印象があるのですが、「悲しみをたべる」=「リスナーの心情に寄り添う」というような形で狙いがあったりするのでしょうか?つまり、あたらよをいろいろと作り上げていくなかで「こう魅せていったらこういう人達にきっと受けるぞ」っていうのを見据えながら曲を作ってリリースしていったのかっていうところなんですけれども。
ひとみ:今回のアルバムに入ってる楽曲のなかで今までなかったジャンルの楽曲、それこそ私だけだったら書かないだろうなっていうジャンルの楽曲とかを書いてみようって提案は全然あったんですけど、こういう曲を作ったらこう売れるだろうみたいなことはやったことがないです。だからもう、そこは割と自然な流れだったというか、曲ができてその曲に対して「こういうMVが合うよね」とか「この曲は今度こういうテイストのMVでこういう俳優さん女優さんを使ってみようか」とか、曲ありきの感じでいろいろ作っていってるって感じなので。全体を見据えてっていうのはあんまりないですね。
──以前何かのインタビューで「(作詞は)事実50%・フィクション50%」というお話を拝見したのですが、日常のなかでどういう風にインプットして、それをどうアウトプットしていくのかってところをお伺いしたくてですね。恐らく事実ベースで世界観を作っておられるのだと思うのですが、何かインプットしようと思って作詞されるタイプなのか、それとも自然と降りてくるタイプなのか、タイプ的にはどちらでしょうか?
ひとみ:どっちかっていうと降りてくるタイプですね。で、曲を作る時も詩メロの同時進行で書くタイプなんですよ。ギターなりピアノなりを用意して、iPhoneのボイスレコーダーのボタンをポチっと押してもうガーッってそのまま歌うんですよ、何も気にせず。で、出来上がったものを聴き返して「こことここのフレーズは活かそう」とか「ここはもうちょっと別の歌詞考えてみよう」みたいな感じで作ってるので、割と「よし、詩を書くぞ!」みたいなのはあんまりないですね。
──それはもう最初からなんですか?専門学生の頃から?
ひとみ:最初からですね。
──ギターを持ったら歌が出てくるみたいな?なんか弾きたくなって、弾いて歌ってみると出てくるというような。
ひとみ:そうですそうです!本当にそんな感じです笑!やろうと思うと逆に出てこないですね。
──ちなみに、フィクションの部分っていうのは肉付けしていく作業でどんどん出てくるものですか?
ひとみ:もうどんどん出てきますね。事実ベースで、なんかこうふっと曲を書きたいってなるじゃないですか。で、こう(ギターを)抱えてみて、歌ってるんですけど事実も言うしフィクションも言うしみたいな感じで、頭の中で自然と同時に構成しながらやっているんですよね、すべてを。吐き出すのと構成を同時にやってるから、っていう感じですね。上手く説明できないんですけど。


──それってある種別のひとみさんが降りてきているみたいな感じもあるんですか?
ひとみ:ああ、あると思います!
ーそうですよね笑。事実を言ってるひとみさんがいる一方で「いや、これこういうことなんじゃない?」みたいに言ってるひとみさんもいて、それでどんどん(歌詞が)できていくみたいな。
ひとみ:そうですね。だから未だに過去の曲の歌詞とかを見返すと「この歌詞をどうやって思いついたんだろう?」って思う歌詞とか結構あるんですよ笑。本当にそういう状態で、気付いたら出てた言葉って割とたくさんありますね。
──じゃあたとえば「この曲ヒットしたから次もこの曲みたいにちょっと違う視点で作りたいね」ってなった時にそれがなかなか難しいこともあるわけですね。詩の世界観っていうところで。
ひとみ:そうですね。曲調とかは寄せることができると思うんですけど、詩の世界観でいうとやっぱ感覚を掴まない限り意図的にはできないと思いますね。
──ということは、ひとみさんの歌詞はめちゃめちゃ生ものってことなんですね笑
ひとみ:そうですね!

人の数だけ季節の記憶があるから『季億』

──続いて新作アルバム『季億の箱』に込めた想いやコンセプトをお聞かせください。また、「記憶」という言葉をこの当て字にした意図はどういったところにあるのでしょうか?
ひとみ:今回のアルバムが割と季節を題材にした楽曲が多くて、そのなかで冬をただ描くっていうよりも冬のなかでクリスマスを描いてみたり、春のなかで卒業を描いてみたりみたいな、いろんな季節だけどもっとこう視点を狭めた楽曲が多くなっていて。季節を描いてるっていうのは一貫して変わっていないんですけど、その楽曲を作っていくにあたって私が思い描くクリスマスはこうだけど、聴いた人がこのクリスマスに共感するかは分かんないなって。でも共感する人も多分いるんじゃないかな?みたいな感じで作っていた時に「あ、季節の記憶って人によって違うんだ」っていうのを思いまして。ということは、人の数だけ季節の記憶があるんじゃないか、私の知らない夏の記憶を多分皆さん持ってるんじゃないかっていう風に思って。それで、季節の「季」に人の1億2億の「億」を掛け合わせて「季億」。で、それをあたらよのアルバムっていう箱に閉じ込めるっていうことで、アルバムを聴く時、箱を開けた時に聴いた人があたらよの様々な季節の楽曲とともに自分の中にある季節の記憶を呼び起こして聴いてほしいなっていう。そういう意味が込められています。
──めちゃめちゃ深いですね。
ひとみ:笑
──確かに、夏って聞いて「暑い」以外に抱くイメージって人によってそれぞれ違いますもんね。ちなみに今回の作品において、特に思い入れの強い楽曲というのは皆さんそれぞれあるんでしょうか?その理由も教えてください。
まーしー:難しいな笑
ひとみ:みんな思い入れあるもんね、それなりに。

まーしー:うん。自分は編曲をやった「空蒼いまま」ですかね。久々にああいうちょっとロック系な曲をやったなあって思って。最初はちょっとコンセプト的に合っているのか分からなくて不安だったんですけど、みんなで「まあ全然いけるよね」みたいな話になって。そっからいろいろ作ってひとみに歌詞とメロディを載せてもらって、たけおにベースをアレンジしなおしてもらって録ったんです。あれを本当に作ってよかったなって思うのがライブの時ですね。ライブの最後にやるとみんなでめちゃくちゃ盛り上がって終われるんですよ。自分の中ではかなり “ライブを作れる曲” を作れたなあと。あと、(ライブではなくて)普通にイヤホンとかで聴く時はちょっと頑張ろうって思える歌詞だったりとか、その力強さで人を元気づけられるような感じの曲ができたなって思ってて、自分の中では結構思い入れが強いですね。

ひとみ:私は、 “思い入れがある” と “好き” って違うんですけど、思い入れがあるで言うと「13月」っていう曲です。これは本当にアルバム制作のなかで最後の最後に出来上がった楽曲なんですけど、なんていうか…今まで作ってきたアルバムの曲たちがわりときれいにまとまっているのに対して、「13月」っていう曲はちょっとこう…言い過ぎじゃね?みたいな口悪くね?みたいな感じがあって笑。でもこっちが割と本当の私ではあるっていうか、なんかすごい二面性があるなって思って。かといって今までの曲が偽物の私かっていうとそうじゃないんですけど、わりと「13月」っていう曲は私の本当に言いたかったことを素直に書けた曲だったんで、すごい思い入れがありますね。聴いてても歌っててもちょっと泣きそうになってくるくらい。
──それは先程のフィクションみたいな部分も含まれていたりするんでしょうか?
ひとみ:もちろんあります。多分事実の割合が多いのかなっていう気がしますね。
──なるほどですね。ちなみに “思い入れ” と “好き” で違うというお話でしたけど、一番好きな曲でいうとどうでしょうか?
ひとみ:一番好きなのは「僕らはそれを愛と呼んだ」が、メロディ含めすごい好きだなあって思う楽曲ですね。
──これ世代かもしれないですけど、サンボマスターの楽曲(「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」)と似てるなあって思って…笑
(一同爆笑)
ひとみ:それは本当そう笑。レコーディングする時にタイトルどうしようってなって、「なんか似たようなやつなかったっけ?」ってなって笑
まーしー:サンボマスター笑
ひとみ:そう笑、あまりにもジャンル変わってきちゃうなっていう話はしたよね。
まーしー:確かに笑
──たまたまそうなっちゃったんですね笑
ひとみ:そうですね笑
──ありがとうございます!たけおさんはいかがですか?

たけお:そうですね。思い入れ…思い入れかぁ。…うーん、自分ベースなんで、その思い入れっていわれると難しいんですけど、やってきた曲のなかで一番好きだったっていうのは「アカネチル」っていう楽曲で、頭から一気に一音目からというか一発目からドン!って世界観に入り込む感じがすごい好きで…そうですね、好きでしたね。
ひとみ・まーしー:笑
ひとみ:なんで過去形なの?笑 今も好きでいてくれよ笑
たけお:いや、今も好きです好きです!すいません笑
──笑。それは演奏してても好きみたいな視点もありますか?
たけお:そうですね、演奏してても好きですね。割といいベースが弾けてるんじゃないかって思います。

この人達だったら私が書いた曲を預けられるなって純粋に思って「いいよ、バンド組もう」ってなりましたね

──今作は、これまでの楽曲と比較すると1990~2000年代の平成感が強い曲調や楽曲構成という印象を受け、そこにあたらよさんらしい歌い回しだったり等身大で寄り添った歌詞の世界観だったりを合わせているのが魅力なのかなと感じました。こうしたいわゆる往年のJ-POPっぽい曲調というのは、さらにリスナーのターゲット層を広げていこうという狙いがあったりするのでしょうか?
ひとみ:全然、ないです…笑!
──笑。じゃあたとえば、メンバー同士で「そういえば最近平成の楽曲すごい聴いてるんだけど、この曲ってすごい名曲だよね」って感じの話があって、そこから平成っぽい楽曲に寄っていった…ということは?
ひとみ:そういうのもないよね。
まーしー:うん。
──では、たまたまそうなってるっていう感じなんですかね笑
ひとみ:はい笑
まーしー:みんな好きなジャンルが多分違うので。
──なるほど。みんなでああだこうだ言いながらいろいろやっていくなかで、そういうとこに落ち着いたって感じなんですね。
まーしー:だと思います、本当に。皆好きなバンドが違うから多分影響受けたものが違くて、世代もね。
ひとみ:そうだね。まーしーは割と昔の曲とか広く聴いてるんですけど、私は本当に昔の曲知らないんで。そういうところでアプローチが変わってくるっていうか、普通の人だったら私が出してきた楽曲に対して「そのギターフレーズはつけないだろ」みたいなところをもってきたりするんで。
まーしー:あざっす笑
(一同爆笑)
──新鮮さ、みたいな笑
ひとみ:そうですね。新鮮さもありつつ、たまに本当に意味分からないものもってくるんでそういうのはボツにしたりとか笑
──ちょっとあたらよとは違うでしょ、という笑
ひとみ:そうですね笑
まーしー:ブルースマンチックだから笑
ひとみ:どうしたんだろうなっていう笑
──学生時代に聴いていた音楽が今に反映されていることはあったりするんですか?
ひとみ:あると思います。それこそ自分のルーツ的な部分でいえば、バンドっていうよりもシンガーソングライターのほうが強いので。何ていうんでしょうね、割と1人の弾き語りでも成り立つようなテイストの楽曲に仕上がりやすいというか…みたいなのはありますね。
──それをバンドサウンドに仕上げるのはスタジオで、という感じなんでしょうか。
ひとみ:今はドラムがいないので、私が弾き語りした曲をまーしーに投げて、まーしーが一通り全部トラック作って、それをまた各々に渡して好きなようにアレンジするっていうパターンと、アレンジャーさんがいらっしゃる場合はアレンジャーさんに投げて、返ってきたのをまたメンバー間で「ここはこっちのほうがいいよね」って弾き直したりとか、いろいろやったりしますね。
──割と離れたところで曲作りをし合うことが多いんですか?
ひとみ:最近はそうですね。
──コロナが緩和されてきてからも、そのスタイルが定着しているんですね。
ひとみ:そうですね。なんかそれこそ本当にドラマーがいた頃はみんなでスタジオ入ってワーッて曲作ろう!とかやってたんですけど、やっぱドラムがいないとどうにもこうにも…3人で入っても曲のイメージもできないし。てなると、やっぱ一旦パソコン上で形を作ってそっから各々やってねっていうのが速いなっていう。効率としてもそっちのがよかったりして。
まーしー:うんうん。

──ちなみにさきほどメンバーそれぞれで好きな音楽性が違うって話がありましたけど、そんななかでバンドを一緒にやろうってなったのはどういうきっかけだったんですか?
まーしー:自分が友達と飲み屋にいて、1回休憩しようってなって携帯見たら、ひとみの10月の弾き語りがTwitterにあがってて。で、2人でちょっと聴いて「わ、これヤバ!」ってなって速攻電話かけて、「いついつスタジオね」って言って(電話を)切ってスタジオに来てもらって、曲を作るっていう。
ひとみ:めっちゃ強引ですよね笑
──そうですね笑
ひとみ:拒否権なかったんですよ、私に笑
──行くしかないっていう笑
ひとみ:そうなんですよ。なんかめっちゃ酔っ払いから電話かかってきたなと思ったら「ひとみぃ、ごのきょくやばいよ!ほんとにまじでやばいから!ズタジオはいろうよ!」って言われて笑!なんか酔っぱらってるし、本気なのかな?ってちょっと思うところもあったんですけど、あまりにも熱意がすごいから「あ、多分酔ってはいるけど本気なんだな」って笑
まーしー:笑
──嘘はないだろなって笑、酔ってこう言ってくるってことはっていう笑
ひとみ:そうなんですよ笑、とりあえず行ってみようかなって感じで。で、行ったら想像以上に曲を聴き込んできてくれてて、そのうえで「俺らこういうバンドサウンドにしたらいいと思うんだけど」みたいな感じで言ってくれて。その場で演奏した時にすごくなんか私自身腑に落ちたっていうか。
──これならいけるかもしれないみたいな?
ひとみ:そうそう、そうなんですよね。当時はいろいろバンドを組んで解散して…みたいなのをやってたんですよ、専門学校時代に。でもそのなかでやっぱ私バンド合わないのかなって思ってて。ちょうどシンガーソングライターで1人でやってこうって思ってた時期に一番最初に書いたのが「10月無口な君を忘れる」っていう楽曲だったんですよ。で、それをこうポンてTwitterにあげたら(まーしーが)バンドやろうって言うもんだから笑。最初は本当に「またかよ。もう1人でやるって決めたんだよ」って思いつつ、なかばちょっとマイナスな気持ちで(スタジオに)行ったんですけど、「あれ?なんかこの人達とだったら一緒にバンドできるかも」って思って。今までの人達を悪く言うわけじゃないですけど、割と今まで組んできた人達は「自分が前に出たい」っていうのが強くて、歌をかき消しちゃう演奏をしてたんですね。

──ああ、はいはい。なるほどですね。
ひとみ:で、(今までは)私が一番届けたい部分が伝わってないっていうもどかしさがあったんですけど、それがこの人達と合わせた時に解消されてて。じゃあ多分それだけ曲を聴いてきてくれたんだなっていうのをそこで実感したし、この人達だったら私が書いた曲を預けられるなって純粋にその時思って「いいよ、バンド組もう」ってなりましたね笑
──普段聴かれてる音楽はロックだったりパンクだったりっていうジャンルも多かったりするわけじゃないですか。ひとみさんの紡ぐ音はドォン!っていくバンドサウンドより、だいぶ落ち着いた曲調だと思うんですけど、やっぱりいいものはいいというか、歌がとにかく刺さって、心揺さぶられてバンド一緒にやろうってなった感じですかね?
まーしー:エルレ(ELLEGARDENの略称)を初めて聴いた時と同じような、こうビリッとくる感情が、なんか電気が走るみたいな感じで。もう本当にとにかくこの人の横でやったら多分いけるって思って…っていう感じです。もう本当に、いい!ってなって速攻で電話かけましたね。
──なるほど笑!めちゃくちゃ理解が深まりました。

もう一人の自分とともに日々行う「悲しみを咀嚼して "たべる" 作業」

──歌詞において「僕」っていう言葉を一人称として使うことが多い印象を受けたのですが、そこには何か意図があったりするんででしょうか。
まーしー:たしかに…!
ひとみ:意図…。
──普段あんまり「私」っておっしゃらないんですか?「僕」ですか?
ひとみ:いや…、一人称なんだろう?
まーしー:「私」の時もあるし、「僕はさぁ」みたいに言う時もあるし笑
ひとみ:ふざけてる時でしょ、それは笑
まーしー:そうそう笑

ひとみ:あー、なんだろうな。それこそ詩メロを同時に作ってるんで、なんかポンて出てきた時に「あ、こっちのほうがハマる」って思ったほうを使ってますね。この曲の雰囲気は多分「私」で作っていったほうが合うなっていう。「私」がポンて出てきた時はこの曲は「私」なんだなって感じだし、「僕」がポンて出てきた時にこの曲は「僕」なんだなってなるしっていう。
──それもまた降りてきた歌詞の時点で「僕」ってなってるんですか?
ひとみ:なってます。だからたまーに「君」と「あなた」とかが混在してることもありますね。意図的にやってる曲もあるんですけど、「君」と「あなた」が混在してごちゃごちゃになった状態で出てくる曲とかもあって、そこはちょっと修正しつつ。辻褄合わせてって感じですね。
──それってあくまで、ひとみさんの視点の「僕」なんですかね?なんでしょう、その…分かりますか?笑
ひとみ:ああ、はい、伝わります笑。自分ではないんです。でも自分に似た何かなんですよ。
──なるほど笑。
ひとみ:なんか「ひとみが歌ってる」っていうよりも「あたらよのひとみが歌ってる」って感じで。そこはちょっと乖離してるっていうか…っていう感じですね。
──自然にもうあたらよのひとみさんになってるんですね。
ひとみ:ですね、多分。
──確かに、それはもう意識の中ではないですもんね。弾いて歌ってみたらポッと出てきて、それが「僕」になってたり「私」になってたりって。
ひとみ:その歌詞を見返した時に、ひとみの言葉ではないなっていう気がする歌詞もあるんですよ。だから多分、それはあたらよのひとみの言葉なんだろうなっていう。
──それもちゃんとこう、あたらよのひとみさんでなくひとみさんとして「これも確かにありだな」って思ってOK出してる感じですよね?
ひとみ:あ、そういう感じですね。
──その、きっと違和感はあるわけですよね。「わたしはこんなこと言わないけど、あたらよのひとみはこう言ってるぞ」っていうところに、ひとみさんはOKを出すわけですもんね。
ひとみ:そうですね。最初はそれこそそこのギャップに「うわ」って思うこともあったんですけど、あたらよのひとみとしては多分これが正解だろうっていう。で、落としどころを見つけてきた楽曲も今までにはあったので。
──それは全部ご自身の中で咀嚼するのか、またはどなたか別のバンド仲間やバンドメンバーに相談するのか、どっちでしょうか?
ひとみ:全部自分ですね。人に相談することはないです。
──へえ、なるほどすごいなあ。それはもう本当に自問自答というか、そこが結構多いわけですもんね。とりわけ楽曲作りにおいては。
ひとみ:ああ、そうですね。あとよく普段からすっごい独り言言うんですよ笑。なんか自分ともう一人別の誰かがいて、その誰かが明確な○○さんとかじゃないんですけど、なんかがいて笑、それとずーっと喋ってるんですよ。家で。
──へえ、すごい笑
ひとみ:気持ち悪いと思う笑!本当なのこれ笑
(一同爆笑)
まーしー:椅子の位置だけ変えてよ笑
(一同爆笑)
ひとみ:なんかそれに近いのかな?自問自答っていうところでは。楽曲作りのための。
──たとえば今この部屋にいろんな人がいますけど、こういう状況においてももう1人の誰かっていうのはいますか?
ひとみ:それはいないです!1人の時にいて、話したいなって思ったらなんかいるから喋ってる、みたいな。
──笑
ひとみ:変なこと言ってる、私?笑
──なんかあれですね、カフェとか行く必要がないですね笑
(一同爆笑)
まーしー:確かに笑
──話したいことあってさ~って(誰かと)予定合わせて行く必要なくなっちゃいますね笑
ひとみ:そうなんですよ笑

──すごい笑
ひとみ:自分でも不思議なんですけど、たとえば悩んでることとかあった時にふっと(もう1人の誰かが)ぼんやりいて、その人に「こうこうこうなんだよね」って言うと、別にしゃべり返してくるとかはないんですよ、ないんですけど、頭の中にこの人はこう言うだろうなっていうのがなんかあるんですよ。
──へえなるほど笑
ひとみ:返ってくるんですよ笑 で、その言われたことに対して「え、でもそれってこうじゃない?」っていうのを、こうずっとキャッチボールしてるみたいな。
──えーなるほど笑、なるほどですね
ひとみ:喋って脳内に(返事が)返ってきて…っていうのをやってるみたいな。だから独り言めっちゃ多いです。
──自分の脳内で自問自答することはみなさんあると思いますけど、それはあくまで自分で、他の誰かという感覚はないので。でもまあ、大事な作業ですよね。楽曲作りのすごい肝というか。それこそ “たべる” 作業がそれですもんね。
ひとみ:だから誰にも相談できないこととか、そうやって解決しています。そこで相談して。
──相談して笑
ひとみ:笑
──じゃあその咀嚼したものが楽曲になりました、という時は結構達成感はありますか?
ひとみ:ありますね。
──私の悩みというかあの鬱屈した想いが形になったぞって、しかもすごいいい曲じゃないかみたいな達成感というのは?
ひとみ:あります、あります。
──めちゃくちゃいいですね、その循環が健康的ですね笑
ひとみ:そうですね笑
(一同爆笑)
ひとみ:やっぱり曲で吐き出せてるから今こうしてやっていけてるみたいなところも正直あるので。
──いろいろお話を伺っていて、天性のものというか、やるべくして音楽をやっている感じがすごく伝わってきました。
ひとみ:ああ、確かにそんな気がしますね笑
──勝手ながらたくさん刺激をいただきました。インタビューは以上です。ありがとうございました。


あとがき

天性のセンスで作詞作曲を手がけバンドを牽引するひとみさん、独自のアレンジセンスと明るいキャラクターでバンドを盛り立てるまーしーさん、穏やかなお人柄と力強いベースラインでバンドを支えるたけおさんの3人から構成されるあたらよ。わずか一時間ほどのお話ながら、バンドの持つ魅力や真髄をたくさん垣間見た気がしました。

あたらよが歌う悲しみや怒りという感情は誰しもが抱えるもの。リアルな情景が浮かぶような独特の世界観には年代を問わず人々を惹きつける魅力があります。本インタビューではじめてあたらよを知った方も、すでにファンのみなさんも、ぜひ彼らの持つ魅力に触れてみてくださいね。

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