生きた証を刻め THE BACK HORN ONE MAN LIVE〜破曉的號角〜in TAIWAN

生きた証を刻め THE BACK HORN ONE MAN LIVE〜破曉的號角〜in TAIWAN

日本のロックバンドTHE BACK HORNが、ニューアルバム『暁のファンファーレ』を携え、台湾で2度目のワンマンライブを行なった。確かな演奏力に裏打ちされたライブパフォーマンスは、期待どおり衝撃的な爆発力を携えたものだった。会場に一歩足を踏み入れると、初めて彼らのライブを体験するファンの緊張感なのか、もしくは再会を長い間待ち望んでいたファンの張りつめた期待感なのか、そこにはすでに熱気を帯びた空気が充満していた。シンプルな舞台セットには今回のツアーフラッグが掲げられ、ステージ上に配置された楽器類はその演奏者を今か今かと待っているようだ。荒野に吹く風のような、唸り声にも似たSEをバックにメンバー4人が登場すると、それまで抑圧されていた観客のエネルギーは解放され、会場に叫び声が響き渡る―。 暁の向こうの激情と静寂 ニューアルバム同様、ライブは「月光」で幕を開けた。その叙情的な曲調で観客の感情は熟成され、続く「シェイク」のイントロが奏でられると、煽動されたエモーションは一気に収拾がつかなくなる。瞬く間にファンの一人がステージ前の手すりによじ登り、会場前方に集まった観客の上に身を翻しダイブをきめた。リズムにあわせ身体を揺らし、観客の激情は発酵され、「罠」「幻日」から「舞姫」へと至るバンドの最も得意とする歌謡ロックナンバーが続くシークエンスで、会場は懐かしくも魅惑的な雰囲気に包まれる。その余韻の冷めやらぬうちに始まった「ブランクページ」で、今度は会場の空気がガラリと明るくなり、続く「飛行機雲」の温かく落ち着いた曲調により、ライブ前半に沸き起こった激情は沈殿し始めた。こうして観客それぞれに足を止めて思考する時間を与えると、今回のセットリスト中で最も静寂な楽曲、「ホログラフ」へと続いていった。 消えない光 曲の合間に、少し長めの時間を使ってメンバーが中・英・日本語を織り交ぜ観客とやり取りをする場面があった。双方がその場の気持ちをできる限りシンプルでわかりやすい言葉で伝えあう。そして、バンドのリーダーであるドラムの松田が今回のライブの意味を語り始めた。「僕たちを含め、誰でもみんな音楽に救われたことがあると思う。言葉の壁もあるし、国境を越えなければここに来ることはできないけれど、音楽を演奏さえすれば何かを伝えることができると僕は信じている」。彼の話が終わると、会場にひとしきり大きな拍手が起こった。 そのやり取りの後、ライブの後半がスタートした。「バトルイマ」では「今!探し続けよう/それが生きてゆく証」と叫び、また、「戦う君よ」では「戦う君よ/世界を愛せるか」と観客に問いかける。THE BACK HORNの音楽が伝える思いは、光を投影したかのようにファンの態度や姿勢に実際に現れている。そしてステージ上のこの4人から放たれる光は、簡単に消えることはない。 ポジティブに応戦する姿勢 本編のラストは、ポジティブなパワーに満ちた曲「シンメトリー」で締めくくられ、暁のファンファーレは高らかに会場に鳴り響いた。そしてアンコールでは、常にファンを狂喜させる「冬のミルク」の他、「刃」「シンフォニア」といった楽曲も演奏され、繰り返されるモッシュで熱気は最高潮に達した。セットリストの流れは、現在のバンドの思いを反映している。混沌で始まり、葛藤や矛盾に引き起こされる激情を抱えつつ、時には足を止めて自省し、そして最後には立ち上がって前を向き進んでいこうとする。彼らの音楽から伝わる苦悶や哀愁、さらに葛藤といったものは、まさに音楽と人生に真剣に向き合い、ポジティブに戦っていこうとする姿勢から生まれたものだ。 今こうして会場の様子を思い出すとき、耳元で鳴り響くのは「コバルトブルー」のメロディーだ。「ただひたすらに生きた証を刻むよ」と歌われるこの曲は、今回のライブで最も感動的なパフォーマンスのひとつだった。 音楽そのものの魅力で勝負しようとするライブにおいては、ステージセットや特殊効果、スタッフの数などでその素晴らしさを伝えることほど無意味なことはない。なぜなら音楽の本質とは、そういった情報で理解や解釈をするものではなく、現場のライブパフォーマンスからダイレクトに、それぞれが身体で感じ、記憶に刻み込まれるものだから。そして、それこそが直接会場に足を運んだファンにとって、かけがえのない財産となるのだ。 【photo by 沈彬捷】

KKBOX編集室 - liquidair
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